1.夏(アリ・スミス)
イギリスのEU離脱を契機に書き始められた「四季シリーズ」が、本書で完結。既刊3冊『秋』、『冬』、『春』は独立して読める小説ですが、本書では人物の再登場があり、残されていた4作すべてに登場する100歳の老人ダニエルが夢に見る「失われた妹」という謎も解決されるので最後に読んだほうが良いでしょう。歴史の暗転期のたびに起こる移民排除の声に対して、「人々は孤立しているのか」というテーマが繰り返し登場する本シリーズは、著者の代表作とされるのでしょう。
2.やさしい猫(中島京子)
シングルマザーの保育士ミユキさんと、スリランカ人のクマさんとの複雑な関係はどうなってしまうのでしょう。ひとり娘マヤの視点から語られる物語は、移民・難民問題という日本の恥部を暴き出していきます。名古屋出入国在留管理局の施設に収容されていたスリランカ人女性、ウィシュマ・サンダマリさんが亡くなったのは2021年3月のことですから、2020年5月から1年間新聞に連載された本書とは直接の関りはありません。著者の先見の明の確かさは称賛に値します。
3.アディ・ラルーの誰も知らない人生 上下(V・E・シュワブ)
「誰の記憶にも残らない人生」の「誰にも忘れられない物語」。闇の神と取引して、永遠の自由を手にしたアディは、その代償として誰の記憶にも残らない存在になってしまいます。そんなアディを憶えてくれたヘンリーとはどのような人物なのでしょう。そして彼女は、どのような選択をすることになるのでしょう。『ピーター・パン』から着想を得た本書は、成長を拒否する男性の物語ではなく、成長を望む女性の物語でした。
【次点】
・失われた岬(篠田節子)
・自転しながら公転する(山本文緒)
・プロテウス・オペレーション(ジェイムズ・ホーガン)
【その他今月読んだ本】
・少年と犬(馳星周)
・ザリガニの鳴くところ(ディーリア・オーエンズ)
・漆花ひとつ(澤田瞳子)
・あのこは美人(フランシス・チャ)
・ブラック・ヴィーナス(アンジェラ・カーター)
・死者の軍隊の将軍(イスマイル・カダレ)
・東京ロンダリング(原田ひ香)
・余部鉄橋物語(田村喜子)
・獅子の門1 群狼編(夢枕獏)
・獅子の門2 玄武編(夢枕獏)
・興亡の世界史10.オスマン帝国500年の平和(青柳正規編/林佳世子著)
・ワーカーズ・ダイジェスト(津村記久子)
・獅子の門3 青龍編(夢枕獏)
・獅子の門4 朱雀編(夢枕獏)
・獅子の門5 白虎編(夢枕獏)
・路上の陽光(ラシャムジャ)
・僕の狂ったフェミ彼女(ミン・ジヒョン)
・キンドレッド(オクテイヴィア・E・バトラー)
2022/10/31