りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

琥珀の夏(辻村深月)

学校を舞台とする初期作品群や本屋大賞受賞作の『かがみの孤城』など、子供たちの心理描写を得意とする著者が、世間からカルトと糾弾される団体が経営する学校の卒業生たちの「その後」を描いた物語。実在するある団体がモデルと言われていますが、もちろんフィクションです。

 

40代になった女性弁護士の近藤法子のもとに、ある依頼が持ち込まれます。自然の中で共同生活をおくることで子供たちの自立心と思考力を養うという「ミライの学校」跡地から発見された30年前の子供の骨が、自分の孫かどうか確認して欲しいというのです。実は法子も小学生の時に「ミライの学校」のサマースクールに参加したことがあり、死体は当時の友人かもしれないと危惧していたのですが・・。

 

物語は、現在と小学生時代の法子の視点を行き来しながら進んでいきます。彼女自身が母親となって、子供たちの自主性を信じるという「ミライの学校」の方針が内在していた欺瞞に気付きつつ、理想にはほど遠い子育てしかできない自分を腹立たしく思い、何かに頼りたくなる現在の気持ち。その一方で両親の愛情に飢え、心を通い合わせる友人を切望していた当時の気持ち。心の揺れを抱えながら調査を進める法子は、「ミライの学校」で知り合ったミカやシゲル、ケン先生らと再開を果たします。いったい当時、そこで何が起こっていたのでしょう。

 

子供たちの教育を巡る「大人の責任」や「社会の責任」を問う、深い内容を有する作品ですが、読後感は爽やかです。おそらく物語の着地点が、少女たちの友情物語になっているからなのでしょう。思わぬ所で意外な種明かしを仕掛けてくる、著者のストーリーテラーとしての巧みさも、いっそう鋭さを増しているようです。

 

2024/8