りぼんの読書ノート

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ベル・ジャー(シルヴィア・プラス)

早熟の詩人であった著者が1963年に30歳で自殺する直前に出版された、唯一の長編小説です。内容的にも、女子大在学中に自殺未遂事件を起こして、その後数カ月間精神病院に入院したという著者自身の体験をモチーフとしているため、スキャンダラスな注目を浴びたとのこと。しかし思春期の少女の自殺願望を綴った作品として、少女版『キャッチャー・イン・ザ・ライ』と称されるほど、真に迫った作品なのです。

 

著者の分身であるエスターは、奨学金を得て東海岸の有名女子大に通う優等生です。強い願望や野心を持つ一方で、繊細な一面を持っていたことが、彼女の精神のバランスを崩していったのでしょう。人の優しさや将来への希望が、現実によって裏切られていくたびに、彼女の心は血を流すのです。

 

1950年代のアメリカは、好景気に沸く一方で、まだまだ保守的です、若い女性が期待されるのは、妻となり、母となることであって、バリバリ仕事をすることではありません。男性優位思想に染まっている彼女のボーイフレンドたちも例外ではありません。タイトルの「ベル・ジャー」とは科学実験に用いられる円錐形のガラスの覆いのことであり、全ての若い女性をひとりずつ包み込む「透明な檻」をイメージしているのでしょう。エスターの悩みはそれにとどまりません。母と娘、都会と田舎、愛と暴力、自立と従属、未熟と成熟、カソリックプロテスタントなど、あらゆる相反テーマが彼女を苦しめます。

 

それらの問題に気づきながらただ恋愛を楽しむドリーンや、病状を悪化させて自殺してしまうジョーンというエスターの友人たちもまた。著者の分身なのでしょう。しかし著者はエスターに第3の道を歩ませることにしたようです。「私はここにいるよ」と鼓動し続ける心音を聞きながら、エスターが精神病院から退院していくというエンディングについては、さまざまな解釈がされているようですが、本書は著者の再生物語であったに違いないと思えるのです。

 

2023/11