りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

レオナルドのユダ(レオ・ペルッツ)

f:id:wakiabc:20200815151356j:plain

15世紀末のミラノ。スフォルツ公に招かれてミラノに滞在し、「最後の晩餐」を描いているレオナルド・ダ・ヴィンチの筆は進みません。レオナルド・ダ・ヴィンチはこの大作の最重要ポイントである「ユダ」の顔のイメージが掴めないというのです。「この世のあらゆる罪の炎に焼かれ、死の犠牲によって償おうとする救済者」が、ただひとり許さなかったユダのモデルにふさわしい者などいるのでしょうか。ユダの罪とは「愛する者を裏切らざるを得ない誇り」だというのですが。 

 

物語は、ミラノに住む誰もが「ユダのモデルにふさわしい」という阿漕な高利貸であるボッチェッタと、彼から貸金を取り立てようとしているボヘミアの豪商の息子ベーハイムの関わりに移っていきます。ミラノ滞在中に美しい娘ニッコーラと出会い、彼女を愛するようになったベーハイムでしたが、彼女がボッチェッタの娘と知って悩み苦しんだ末に、ある計略を仕掛けるのですが・・。はたしてこの物語の末に、ユダのモデルは見つかるのでしょうか。 

 

その一方で著者は、深い省察と問題意識を抱えたレオナルドと対照的な、居酒屋詩人マンチーノなる人物を、全てを結び付けるキーパーソンとして登場させています。中世フランスの詩人フランソワ・ヴィヨンがモデルであり、その詩人が記憶喪失になってミラノに現れたという設定のようですが、この人物こそが著者の分身なのかもしれません。 

 

19世紀末にプラハに生まれた著者は、近現代のチェコ文学界でカレル・チェペックやカフカと並び称される作家であり、日本においても国書刊行会などから多くの著作が翻訳出版されてています。私自身、これが9冊めの作品になるのですが、本書が著者の遺作だそうです。作者が追い求めた「幻想とリアリズムのか交錯する世界」の完結にふさわしい、緊張感に満ちた作品です。 

 

2020/9