りぼんの読書ノート

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月桃夜(遠田潤子)

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奄美の海を漂う少女・茉莉香のカヌーに舞い降りてきた隻眼の大鷲は、この世の終わりを待ちながら飛び続けているというのです。その大鷲が語り始めたのは、ある兄妹の物語でした。 

 

時代は天保期。生まれながらの奴隷(ヤンチュ)として、島のサトウキビ畑で一生働く続ける運命の少年フィエクサは、親を亡くした少女サネンを助けて「兄妹」の誓いを立てます。互いに寄り添いあって過酷な労働に耐え続ける兄妹ですが、そんな日が永遠に続くはずもありません。やがて美しい少女に育ったサネンは善良な薩摩の役人から厚意を寄せられます。それは願ってもない好条件の話なのですが、フィエクサはサネンを妹以上の存在と想っているという自分の本心に気づいてしまうのでした。人の道と熱い想いの間に苦しむ2人が出した結論は・・。 

 

一方の茉莉香もまた不幸な事情を抱えており、彼女の漂流は事故ではなく自殺願望でした。大鷲の話を聞き終えた茉莉香は、生き続ける勇気を持つことができたのでしょうか。ストーリーに奇抜さはありませんが、独特の雰囲気を持った作品でした。著者はデビュー作である本書で、2009年度のファンタジーノベル大賞を受賞しました。 

 

2020/7