りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

カザアナ(森絵都)

古来から存在していた、さまざまな自然と通じ合う力を持つ「風穴」なる者たちが姿を消したのは、平安時代末期のことでした。自らの武力によって実権を握った平清盛によって粛清されてしまったのです。それを生き延びたのは、後白河院の姪にあたる八条院暲子内親王によって守られた、石読、空読、虫読だけでした。それともうひとり、後白河院に雇われていた鳥読も。暲子内親王は生家に伝わる石に風穴の力を封じ込めることで、彼らを守ったのです。

 

それから900年後の近未来。衰退しつつある日本を支えているのは裕福な外国人観光客でした。観光用特区とされた地域では日本的なたたずまいが義務付けられる一方で、貧しい外国人労働者は人目に付かないよう地下に押し込められ、誰もがドローンやAIによって監視されるという閉塞感に満ちた国となっていたのです。そんな時代に、中学生の里宇が、京都の謎めいた老婆から秘宝の石を託されたことから、物語が動き始めます。

 

本書では、「ときどき無性にバカバカしい話も書きたくなる」と語る著者の本領が発揮されます。平安時代の風穴に起源する由緒正しき特殊能力が、極めて荒唐無稽なバカバカしい形で発揮されるんですね。石読、空読、虫読の力を庭造りに用いさせたり、近未来になっても責任逃れ体質を維持している官僚機構に対峙させたり、鳥読が支援する緩いテロリスト集団と対決させたりするのです。ついには来日したアメリカ大統領まで巻き込んでしまうのですが、「日本の薄暗い未来像にいくらかの風を送り込む」ことに成功したのでしょうか。

 

これはひとりひとりの読者が判断するしかありませんね。個人的にはデビュー作の『ダイブ』や、初期短編集の『風に舞いあがるビニールシート』や、学習塾の歴史を通して教育問題に一石を投じた『みかづき』などの作品の方が好みなのですが。あ、教育目的に開発されたAIの名将「ニノキン」はツボに来ましたよ。もちろん「二宮金次郎」が語源です。

 

2023/11