りぼんの読書ノート

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華やかなる弔歌(篠綾子)

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『幻の神器』に続く、歌人藤原定家を主人公とする和歌ミステリ。もっとも定家はワトソン役であり、ホームズ役は慈円の孫弟子である園城寺の天才美僧・長覚なのですが。 

 

後鳥羽上皇から勅撰和歌集の撰者のひとりに任命された藤原定家のもとに、歌神と名乗る者から脅迫文が届きます。「ただちに和歌所を閉じなければ、当代の六歌仙を一人ずつ死に至らしめる」と。もちろん上皇から命じられた仕事を中断するわけにはいかないのですが、まずは「当代の六歌仙」にあたる者を推察するる過程が楽しめます。定家は自分を在原業平になぞらえたいようですが、妻の実子も長覚もあっさり否定。 

 

そのうち2名は既に亡くなっており、2名が亡くなるもののどちらも間違いなく自然死。長覚は「当代の六歌仙を一人ずつ殺害する」というのはカムフラージュであり、次の殺人こそが犯人の目的であろうと当たりをつけるのですが、次に歌神が送り付けてきたのは在原業平の和歌でした。はたして殺害されるのは誰なのでしょう。そして犯人は誰で、何のためにそのような手の込んだ殺人を犯そうとしているのでしょう。 

 

時代背景を巧みに取り入れた作品です。後鳥羽上皇の治世前半に外戚として権勢を誇った家の源通親後白河法皇になぞらえた上皇の真意はどこにあったのでしょう。典雅な和歌の世界にそぐわない陰湿な事件であり、表沙汰にできない結末でしたが、ラストで定家が幼い土御門天皇のために詠んだ弔歌に救われます。 

 

定家は妻・実子と添い遂げるのですが、亡き式子内親王への思いを心に秘めていたので、自身を業平になぞらえたかったのですね。真偽のほどは不明ですが、後に二条后となった藤原高子と業平の関係は『伊勢物語』で名高いのですから。ちなみにこの時に定家が編んだ勅撰和歌集が「八代集」の最後を飾る『新古今和歌集』です。 

 

2020/1