りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

漆花ひとつ(澤田瞳子)

平安末期、武士勢力の台頭を象徴する保元・平治の乱の時期。陰りゆく貴族階級の哀しみをテーマとする連作短編集は、直木賞受賞作家の得意分野だけあって、どれもが優れた作品に仕上がっています。しかもこの時代の背景まで自ずと学べてしまう特典までついているのです。

 

「漆花ひとつ」

女性の姿を描くために鳥羽上皇も気に入っているという遊女を訪ねた画僧は、遊女からも依頼されてしまいます。それは保元の乱で討たれたはずの源義親を名乗る偽物の似せ絵を描くことでした。まさかそれが新たな事件に結びついていくとは・・。

 

「白夢」

官位も収入も男性には遠く及ばない女医が、鳥羽上皇の皇后となった藤原泰子の侍医を命じられます。40歳近くなって政略結婚をした泰子は、上皇の新旧の愛姫である待賢門院璋子と美福門院得子に対してどのような感情を抱いているのでしょう。

 

「影法師」

内親王の護衛にあたっていた滝口ノ武士を密かに慕っていた下臈女房は、その武士が友人の妻に懸想したあげく殺害してしまったなどとは信じられません。実はその事件は、未遂に終わった信西暗殺計画と関係していたのですが、結果として平治の乱という大事に至ってしまうのでした。その武士とは、やがて伊豆に流された頼朝の後を追った文覚僧正となる遠藤盛遠です。

 

「滲む月」

信西の警護にあたって討ち死にした下級武士の獄門首を取り戻しに来た妻は、信西の晒し首を奪いに来た僧と出くわします。信西の七男と名乗る僧が、彼女に助力した見返りに依頼したのは、謎めいた少年の世話をすることでした。僧の狙いは後白川上皇の権威を貶めることだったのですが・・。

 

「鴻雁北」

琵琶の二大流派の継承をめぐる騒動は、後白川上皇二条天皇の争いへと発展してしまいました。右往左往する貴族や琵琶の継承者たちに対して、そんなことは些事であると言い放ったのは平清盛でした。

 

2022/10