りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

晴明変生(森谷明子)

源氏物語」の「かかやく日の宮」が失われた秘密に迫った『千年の黙』、「紫式部日記」誕生秘話である『白の祝宴』、「源氏物語」の一大転換点「若菜」が書かれた背景を綴った『望月のあと』の著者ですから、平安時代を題材とする物語はお手のもの。本書は陰陽師として有名な安倍晴明が葛丸と呼ばれていた少年時代に挑んでいます。いわば「清明ゼロ」ですね。

 

下級貴族にすぎない安倍益材の息子であった葛丸は、幼い頃から人の死を「先見」してしまう力を持っていました。彼には、人の目に見えない感情や雰囲気や臭いなどが色彩として見えていたのです。災いを避けて屋敷内に閉じこもっていた葛丸が7歳の時に初めてできた友人が、陰陽師の家に生まれた津久毛(後の賀茂安憲

と、先帝の孫である鶴君(後の源博雅)でした。

 

3人は身分の差を越えて生涯変わらぬ友情を結ぶことになるのですが、その過程でさまざまな事件に巻き込まれていきます。大膳大夫であった安倍益材にかかった宮中での毒殺の疑い。雷神となった菅原道真の祟りに見せかけた殺人事件、百鬼夜行の謎、内親王を襲った水妖の正体・・。やがて物語は、葛丸の出生の秘密に触れ、朱雀門上での葛丸と博雅の再会の場面で終わります。全てが安倍晴明の名を得る前の物語。

 

3人の少年たちに目をかけている藤原師輔のキャラがいいですね。後に道長らを輩出する藤原北家九条流の始祖となる上流貴族ですが、本書の時点では単なる女好きの青年にすぎません。「うつほ物語」で「限りなき色好み」の右大将のモデルとも言われてもいますが、もちろんただ物ではありません。怪異にたばかられない賢さと、確かな人を見る目を有していた人物として描かれています。

 

2023/11