りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

源氏物語 千年の謎(高山由紀子)

イメージ 1

輝くばかりの美貌と才能と家柄に恵まれた光源氏が次々と女性遍歴を重ねていったのは、何のためなのでしょう。しかも『源氏物語』の前半では、彼が出会う女性はことごとく不幸になっていくのです。正妻・葵は夫に心を開くことなく命を落とし、六条御息所は生霊となり、藤壺は不実の人生を生きることになってしまいました。そして次には、無垢な少女に手をかけようと・・。

愛と嫉妬と憎悪の地獄をさまよう源氏は、ついに幽鬼となって、紫式部の前に立ち現れて問い正します。「なぜこんな運命を私にあたえたのか」と。はたして紫式部は、源氏のことを書き損じてしまったのでしょうか。愛の苦しみは、誠の愛へと続く道のりなのでしょうか。

読者はすでに光源氏の生涯を知っています。栄華を極め、ゆかりの女性たちを六条院に住まわせて心の平安も得たはずなのに、女三宮の降嫁を境にして苦悩も深まり、晩年には出家するに至ったことを。本書における光源氏の問いかけは、かなり正鵠を射ているのです。

しかしそれは、まだ先の物語。本書の中では、光源氏は自らの運命を生きる決意を固め、紫式部藤原道長との関係を断ち切って、物語の紡ぎ手として生きていく決意を固めるまでが描かれます。式部や道長よりもかなり年上ながら、かろうじて同時代まで生きていた安倍晴明に、現実世界と物語世界の繋ぎ役を務めさせたのは、ちょっとした趣向ですね。原作でも映画でも安倍晴明は若すぎるのですが。

2019/3