りぼんの読書ノート

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童の神(今村翔吾)

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「童」という漢字の成り立ちには、目の上に刺青を入れて重荷を担ぐ奴婢という意味があるそうです。平安時代に、夷、滝夜叉、土蜘蛛、鬼、犬神、夜雀などと呼ばれて京人から蔑まれていた、中央にまつろわぬ地方人たちは、ひっくるめて「童」と呼ばれていたとのこと。その漢字の成り立ちを知った著者は、「酒呑童子」という名前を見た時に、本書の構想を得たそうです。

 

陰陽師安倍晴明空前絶後の凶事と断じた日食の最中に越後で生まれた桜暁丸は、父と故郷を奪った京人に復讐を誓いました。京で義賊・袴垂に救われ、亡き師の故郷である葛城の土蜘蛛一族に迎え入れられた桜暁丸は、摂津竜王山の滝夜叉や丹波大江山の鬼と連携して朝廷軍に決死の抵抗を挑むのですが・・。

 

本書は『水滸伝』の系譜に連なる反逆物語ですが、人が人を差別することへの怒りがテーマに深みを与えている一方で、単純な「京人vs童」という図式を排除したことで物語に深みが生まれています。京人の中にも藤原道長源満仲・頼光父子という巨悪や、渡辺綱安倍晴明のような平等主義者を配置し、童の中にも坂田金時・金太郎父子や犬神・夜雀という京人の先兵になった一族がいるわけです。本書が角川春樹小説賞を受賞し、直木賞候補となったことも頷けます。

 

平将門の曾孫にあたり、桜暁丸の子を宿した運命の女性・葉月を主人公とする物語の構想もできているとのこと。楽しみに待つことにしましょう。

 

2022/2