りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

トオリヌケキンシ(加納朋子)

イメージ 1

2014年10月に発行された短編集ですが、2010年からの闘病生活以前に書かれた作品も含まれています。しかし、その前か後かということに、意味はありませんね。6つの物語に共通するのは、いずれも理不尽の壁に「トオリヌケキンシ」されてしまった若者たちが、出口を求めて悩み苦しむ姿です。

「トオリヌケキンシ」
下校途中に立札を無視して隙間道に入った小3男子は、古ぼけた家に住む同級生の女子を発見します。学校では話したこともなかった2人は交流を深めたものの、それはもう過去のこと。時は過ぎ、引きこもりの高校生になっていた少年を訪ねてきた少女は、意外な告白をするのです。彼はかつて彼女の「救い」だったのだと。

「平穏で平凡で、幸運な人生」
瞬時に四つ葉のクローバーを見分けたり、ウィニーを探し出せる能力を生かすこともできず、普通の女子高生になっていた少女。ある日教師から、その能力を「共感覚」だと指摘されるのですが、やはり使い道はありませんでした。ある事件が起きるまでは・・。本書の中で一番好きな、ほのぼのとした作品です。

「空蝉」
優しかった母親が「偽物」になって幼児虐待を始めた時に、幼い少年の心の支えになったのは「想像のお友達」でした。実母の死後、自分が空っぽになったように感じながら育ち、高校生になっていた少年が、義母の異常を感じた時に救ってくれたのは、誰だったのでしょう。真相はちょっと、捻りすぎかなぁ。

「フー・アー・ユー?」
相貌失認症のせいで人の顔を憶えられない少年が、女の子から告白されて困り果ててしまいます。なぜなら、相手が誰だかさっぱり分からないのですから。思春期の子が恋をする時、相手の容姿と心のどちらが大事かという、古くて新しいテーマを含んでいるラブコメ調の作品です。

「座敷童と兎と亀と」
妻を亡くしたばかりの老人が、「家に座敷童が出る」といって、ご近所に相談。座敷童の正体は意外なものだったのですが、そこから老人と、近所の人たちの奮闘が始まるのです。さっぱりした性格の中年主婦を語り手にした、楽しい「ご近所小説」です。

「この出口の無い、閉ざされた部屋で」
部屋から一歩も出ず、明晰夢を見ようと試みている少年に、たったひとつ幸福な思いを感じさせた出来事とは何だったのでしょう。著者の闘病体験が反映された作品になっています。

最終話には、これまでの5話に関わるエピソードが少しずつ挿入されています。著者の言葉を引用しておきましょう。「共通の人物をちらっと出すことで、同じ地平線上にいる人たちが、みんないろんな思いや事情を抱えて生きているんだということを表せたらいいなと思いました。実際に自分の隣にいる人だって、自分の目に見えないところでいろんな思いを抱えて生きているかもしれない、と思えるようになれたら」と。

2016/4