りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ウール(ヒュー・ハウイー)

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また1冊、優れたディストピア小説が誕生しました。

地上は汚染されており、地下144階建てのサイロの中で、厳密な思想統制と耐乏生活を余儀なくされている狭い社会。地上に出るのは防護服を着た犯罪者がサイロから放逐される時だけ。ではなぜ「清掃人」は最後に持たされた毛織(ウール)の布で、地上世界を映し出すレンズを磨くのか。そしてなぜ、誰も帰って来ないのか。上巻の半分を費やしての「世界の描写」がまず秀逸であり、読者を引き込みます。

反逆の罪を犯した保安官の後任として、最下層の機械部からジュリエットを抜擢した市長が殺害され、事件の捜査を開始したジュリエットもまた反逆者として逮捕されてしまいます。サイロの中で絶大な権限を有する市長よりも、さらに大きな支配権を握っている存在があったのです。そしてそれは、この世界の成り立ちと大きく関わっていました。

「清掃」の刑を科されて地上へと放逐されたジュリエットは、レンズを磨くことなく視界から消えて行きます。彼女が見ることになったのは、思いもかけない世界の真の姿だったのですが、サイロでは反乱が勃発。ジュリエットや、彼女を慕うルーカスらは、極限の環境を生き延びて、サイロの秘密の核心に迫ることができるのでしょうか。

実は本書は3部作の第1部であり、本書の前日譚である第2部『シフト』と、本書の直接の続編となる第3部『ダスト』をもって完結するそうです。こういうのは一気に読みたいので、一気に出版して欲しいものなのですが・・。

2014/8