りぼんの読書ノート

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濱次お役者双六 三ます目 翔ぶ梅(田牧大和)

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江戸の文政期。周囲からも評価される才能の持ち主なのに、本人にはまるで欲のない大部屋女形・濱次の成長を描くシリーズ3作目は、濱次の引き抜き話を中心とした構成になっています。

「とちり蕎麦」
タイトルは、舞台でとちった役者が詫びとして楽屋中にふるまう蕎麦のこと。森田座の二枚目立役である野上紀十郎が芝居で2度もしくじりをしでかした理由は「見えてしまった」から。亡くなった先代立女形の有島香風の霊も、濱次の才能を見込んでいるのです。ところで、紀十郎と蕎麦屋の間には、ある因縁があったのでした。

「縁(よすが)」
天下の中村座から濱次に持ち込まれた引き抜き話には、やはり裏の事情があったのですが、それにもかかわらず師匠の有島仙扇はこの話を薦めるのです。相変わらずのんびりしている濱次は、どっちでもいいと構えているのですが、同僚の中二階の役者たちは大騒ぎ。彼らもまた濱次の実力に気付いているのです。やがて、濱次の代わりに自分が行きたという役者が現われるのですが・・。濱次に転換点が迫っているようです。

「翔ぶ梅」
早世した初代有島香風の伝説の舞「翔ぶ梅」の誕生譚。身を捨てて相手に尽くす「梅の精」は、男だったのですね。作者である脱藩浪人の人生観が、香風の舞踊によって昇華されていきます。

奥役の清助、座元の森田勘弥、騒がしい中二階役者の面々など、周辺の人物もかなり書き込まれてきました、味わい深いシリーズになっていきそうです。

2014/8