りぼんの読書ノート

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孤蝶の城(桜木紫乃)

同郷の釧路に生まれたカルーセル麻紀さんの半生記を「想像で」描いた『緋の河』の続編であり、完結編です。前作では性的マイノリティーへの偏見が強かった時代に女性ダンサーとして生きることを目指し、性転換手術を受けることを決意するまでが描かれました。本書では、モロッコでの「最後の仕上げ」となる手術を受け、日本で初めて「女の体」を手に入れた「カーニバル真子」の、好奇と蔑みに満ちた世間との闘いが描かれていきます。

 

手術を受けた傷口が化膿して死にかけたこと、意に染まない売り出し方をする所属事務所との軋轢、親友の裏切り、短期間で終わったフランス人青年との事実婚、数々の著名人男性との満たされない関係、そして故郷の家族との複雑な関係。時代の先駆者であった真子は、常に好奇と蔑みの目にさらされ、喝采と屈辱を同時に浴びてきたのです。

 

いつまでたってもイロモノとして扱れることに限界を感じた真子は、女優を目指します。事故死した大親友の巴静香(太地喜和子)が勧めてくれた劇団で演技を学び直し、本格的な映画女優としてデビューを果たそうとした時に大麻取締法違反の容疑で逮捕起訴されるなど、彼女にはスキャンダラスな匂いがつきまとい続けました。しかし彼女は決意するのです。行く先はどんなに細く険しい道であっても「あたしは、あたしの本物でいよう」と。

 

著者は本書を執筆して「生きることの答えが出た」とまで語っています。そして今の時代にこそ「泣かないで生きてきた人の声に耳を傾ける」べきではないのかと。著者が「本にならなくてもいいや」とまで思ったという本書は、たとえ虚構の上に虚構を重ねた作品であったとしても、紛れもない傑作です。

 

2023/5