りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ミス・サンシャイン(吉田修一)

長崎出身の著者は、原爆投下直後の長崎で撮られて「ラッキー・ガール」と題された笑顔の少女の写真を見て、本書の構想を得たそうです。もしこの少女が原爆症で亡くなった親友の思い出を心に秘めながら、アメリカでも人気を博す大女優になっていたら、どのような人生を歩んだろうかと。

 

物語は、会社を辞めて大学院に戻った岡田一心という青年の語りで進んでいきます。彼は指導教授から、伝説の大女優「和楽京子」こと石田鈴が資料を保管している倉庫を整理するバイトを紹介されたのです。彼は、バイトをしながら大女優の生涯をたどっていきます。戦後すぐに肉体派女優としてデビューし、カンヌ映画祭のグランプリを受賞し、ハリウッドにも進出し、帰国後も多くの代表作を世に出し、中年期以降は演劇やTVでも活躍し、80代となった今は引退している女性。その間にはハリウッド俳優や新進画家との恋愛や、破綻した結婚生活もありました。

 

「和楽京子」に特定のモデルはいないようです。「羅生門」の京マチ子や、「夢千代日記」の吉永小百合や「金妻」のいしだあゆみや、「必殺仕事人」の山田五十鈴などのイメージが合成されたものなのでしょう。ハリウッド部分は該当者が見当たらないのですが。

 

物語のハイライトは、切ない恋に苦しんでいた一心が、80代の鈴さんに恋情を抱く場面です。親友を失った哀しみを抱き続ける鈴さんと、幼い妹を失っていた一心の間には心を通わせる何かがあったのです。もちろんそんな恋情が結実することなどなく、うたかたのように消え去ってしまいます。それでも一期一会が貴重なのです。たとえ結末が別れや死であったとしても、

 

2022/12