りぼんの読書ノート

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興亡の世界史13.近代ヨーロッパの覇権(青柳正規編/福井憲彦著)

国家、民族、産業、科学、文化、思想など、現代の世界を覆っているメジャーな価値観のほとんど全てが「近代ヨーロッパ」が世界的な覇権を掌握する時代に生み出され、今なお定義を新たにしながら再生産され続けているようです。「近代ヨーロッパ的なもの」に抵抗し、反旗を翻している者たちも例外ではありません。その一方で「近代ヨーロッパ」がいつ始まったのかという定義は難しく、15世紀に始まる大航海時代から、18世紀末のフランス革命に至るまで所説あるようですが、著者はざっくりと「長い19世紀」としています。地球世界の一体化、グルーバル化は、あるひとつの出来事をきっかけにして急に始まったものではないのですから。

 

「近代ヨーロッパ」の萌芽は、直前の「近世ヨーロッパ」の中にありました。長くアジアの後塵を拝していた西欧で起こり、蓄積されたさまざまな要素が「近代」になって一気に世界を席巻していったわけです。政治的にもっとも重要だったのは「領域の確定した主権国家という原則の確立」であったとのことですが、その背景には、宗教戦争と帝位継承戦争による戦争技術の発展、農業生産力の向上による人口増加、技術革新と資本蓄積、思想や学術の発展、行政経済システムの拡大など、ありとあらゆる分野における大変革があったわけです。

 

著者は、それらのひとつひとつを丁寧に検証していきます。ここで詳述はしませんが、私たちの「世界史の知識」がいかに西洋史偏重であったかを思い知らされました。このシリーズでスキタイ、イスラム、トルコ、ケルト、東南アジアなどの巻を読んだ時には「初めて知ったこと」が多かったのですが、本巻に綴られる歴史的な出来事には馴染みが深かったのです。もっともそれらの「意義」については再学習できたわけですが。

 

「近代ヨーロッパ」の始まりは漠然としていますが、終わりは明確です。第一次世界大戦が西欧の覇権を終わらせた訳ですが、「西欧的な価値観」はアメリカに継承されました。その一方で負の側面や、主権国家の枠組を超えた課題も明らかになってきたわけですが、それはまた別の巻で論じられるのでしょう。

 

2022/12