りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

古道具おもかげ屋(田牧大和)

主人公は、小さな古道具屋「おもかげ屋」の若い店主の柚乃助と、離れに住んで迷い猫探しで生計を立てている少女のさよ。それぞれに家庭の事情を抱えている2人が、なぜこのような暮らしをしているのかが明かされていく物語。

 

さよは呉服問屋の一人娘だったものの、婿養子だった父親が遊女と心中したことで、母親と祖父から虐待を受けていました。通報を受けた八丁堀の旦那と謎めいた過去を持つ目明しの両に救い出され、「おもかげ屋」に預けられています。彼女が迷い猫探しを得意にしているのは、白猫が唯一の友人であったから。その一方で彼女は、商売に関心がなさそうな柚乃助のために客を探し出してもいるのです。

 

柚乃助が営んでいる古道具屋は、祖父が興して父親が潰し、祖母の菊が再興したお店です。料理人だった父親は失踪し、母親は心労で亡くなっています。柚乃助が古道具屋を続けているのは、売り払われてしまった母親の形見の珊瑚の簪を探す目的なのでしょうか。人よりも古道具の愛着を感じるという柚乃助は、「古道具の幸せ」を全うさせるために、古道具に関する客の「困りごと」を解決するようになっていきます。

 

2人とも人が苦手なのに、猫や古道具のためには人と関わらなくてはなりません。それは生きることが苦手な2人の成長を促してくれるのでしょうか。その一方で、2人を囲む人々が抱えている事情などは明きらかにならないまま、本書は終わってしまいます。続編もありそうな雰囲気ですが、何とも言えませんね。魅力的なキャラを多数生み出している著者ですが、長く続けているシリーズはそれほど多くないのです。デビュー作以来5作を続けた「濱次お役者双六シリーズ」と、現在9作まで継続中の「鯖猫長屋ふしぎ草紙シリーズ」くらいでしょうか。ほかはせいぜい2~3作程度。本書に関しては、せめてあと1作は書いて欲しいのですが。

 

2022/12