りぼんの読書ノート

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興亡の世界史15.東インド会社とアジアの海(青柳正規編/羽田正著)

通常はオランダ史やイギリス史の一部として扱われている東インド会社を、世界史の重要な一時代として扱うという大胆な試みです。17世紀のヨーロッパに相次いで誕生した「史上初の株式会社」が、「グローバル化」の端緒として世界を大きく変貌させた重要な要素であると位置づけた意欲作です。

 

東インド会社がアジアにもたらした影響はさまざまです。南アジアや東南アジアではヨーロッパ諸国による植民地化の先兵であり、中国では阿片戦争のきっかけを作った悪辣な商社であり、日本ではヨーロッパの先進文化をもたらした存在として評価されているのですから。著者はその全てが、貿易によって利益をあげるために地域ごとに異なる戦略を採用した結果であるとしています。

 

発端はポルトガルでした。15世紀末のヴァスコ・ダ・ガマの「インド発見」が、海上貿易独占を目的とした主要港湾ネットワークを作り出したわけです。その背景には航海術とならんで軍事力があったわけですが、武力に優るムガル帝国海上支配権への無関心にも助けられたようです。しかし冒険商人に頼る小国ボルトガルには、巨額の投資を必要とする貿易ネットワークの維持は無理でした。やがて巨大な資金力を有する商人や金融業者の共同出資事業である、オランダとイギリスの「東インド会社」が誕生。オランダはポルトガルを追い落としてマラッカ以東の海域を制し、イギリスはインド亜大陸に拠点を確保。17世紀から18世紀にかけてのアジアの海の主役は、両国の東インド会社となるのです。国家主導のフランス東インド会社の脅威は一時的なものでした。

 

当時のグローバル貿易の特徴を要約すると、「西欧諸国がアメリカ大陸で略奪した銀でアジアの物産を購入していた」ということになるのでしょう。これが200年続いた結果、西欧諸国に蓄積された富が産業革命を準備し、生活水準を向上させた市民たちの革命が「国民国家」という概念を生み出しました。皮肉にもそれが東インド会社の時代を終わらせることになります。一部商人たちの独占に委ねられていたグローバル貿易は、国家事業として営まれる植民地化へと道を譲ることになるのです。

 

2023/1