りぼんの読書ノート

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約束の果て(高丘哲次)

中国と思しき大国・伍州に伝わる2つの史書は、明らかに偽史と小説にすぎないものでした。遥か古代の神話時代に始まる「歴世神王拾記」と、中世の創作とおぼしき「南朱列国演義」。かの国の歴史学者から縁あって引き継いだ書を父親から託された日本人青年が、物語の舞台となった伝説の国へと向かいます。

 

「南朱列国演義」に記されていたのは、五州の全てを支配する地神が自らの権能を分け与えた半神半人の識人たちの世界。あらゆる生物たちが人格を有している世界を破壊したのは、やはり人間でした。蟻の本性を有するバキュウをたばかって識人たちを排除したのです。しかし身体を無数の肉片に分割されたバキュウの執念は逆に人間の都を支配してしまったのです。それほどまでの執念とは、彼に好意を抱いてくれた識人の少女・瑤花への思いでした。

 

「南朱列国演義」はその後日談です。伍州のほぼ全域を支配する壙国の末端王子・真气は、遥か南方の小国ジナンへと送り込まれます。しかしそこは、太古の時代に人間に駆逐された識人たちが寄り添って住まい、少女姿の瑤花を女王として戴く地域だったのです。恐怖が支配する母国からジナンを守ろうとする真气と瑤花は惹かれあうのですが、恐怖の大王・バ帝が率いる壙国はそんな感情など認めてはくれません。やがて壙国の大軍がジナンに攻め入るのですが・・。

 

幾千年の時を結び付ける「ボーイ・ミーツ・ガール」の物語は、どのように結末を迎えるのでしょう。そして幻のジナン地方に足を踏み入れようとしている日本人青年は、そこでどのような役割を果たすことになるのでしょう。かなりの奇書ですが、「黒と紫の国」という副題の意味が明らかになった後に残るのは、不思議な感動のはず。さすが、酒見賢一佐藤亜紀佐藤哲也池上永一宇月原晴明西條奈加らの作家を生み出したファンタジーノベル大賞の2019年受賞作です。

 

2023/1