りぼんの読書ノート

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東欧の想像力(奥彩子/編)

現在まで20冊出版されている松籟社の「東欧の想像力シリーズ」を細々と読み進めています。本書はその副読本として、各国・地域別に20世紀以降の現代東欧文学史を概説し、さらに重要作家を個別に紹介してくれています。

 

ただし、そもそも「東欧文学」という定義が悩ましい。日本文学の場合には、C・W・ニコル、リービ英雄楊逸のような日本語で著作する外国人作家や、カズオ・イシグロ多和田葉子のように外国語で執筆する日本人作家をどう定義するかという問題なのでしょう。しかし「東欧」という括りの場合には、対象となる国、地域、人種も多様であり、そもそも「東欧」という概念すら曖昧なのです。本書では、いわゆる東欧諸国に加えて、オーストリア、ドイツ、南欧、イディッシュ、英語圏、フランス語圏、ラテンアメリカにおける「東欧的要素」にまで対象が広げられています。

 

まず強烈な印象を受けたのが、東欧作家たちの背景が壮絶なこと。侵略、戦争、分割、併合、独立、動乱、革命、弾圧、投獄、虐殺、亡命などの凄まじい言葉と無縁な作家などいないといっても過言ではありません。次いで思ったのは、知らない作家が圧倒的に多いこと。しかも「東欧の想像力シリーズ」で読んだ作家を除けば、知っている作家の大半が、亡命して「外国語」で書いている方々なのです。日本と「東欧」との遠さをあらためて感じさせられました。

 

とりあえず、国・地域別に「知っている」作家を列挙しておきましょう。

ポーランドスタニスラフ・レム、オルガ・トカルチュク、パヴェウ・ヒュレ

 

チェコカレル・チャペック、ボフミル・フラバル、ミラン・クンデラヤロスラフ・ハシェク、ラジスラフ・フクス、ヨゼフ・シュクヴォレツキー

 

ハンガリー:ナーダシュ・ペーテル、エステルハージ・ペーテル

 

・旧ユーゴスラヴィアイヴォ・アンドリッチ、ダニロ・キシュ、ミロラド・パヴィッチ、メシャ・セリモヴィッチ

 

アルバニア:イスマイル・カダレ、ファトス・コンゴ

 

ルーマニアパウル・ゴマ、ミルチャ・エリアーデ、ミルチャ・カルタレス

 

旧東ドイツジェニー・エルペンベック

 

・東欧系ドイツ語文学:ギュンター・グラスジークフリート・レンツ

 

・東欧系フランス語文学:アゴタ・クリストフ、パナイト・イストラティ

 

・東欧系英語文学:イェジー・コシンスキ

 

恥ずかしながら、スロヴァキア、ブルガリアオーストリアの章で紹介されている作家は皆無でした。「知っている」といっても複数の作品を読んでいる作家は、トカルチュク、クンデラ、フラバル、エルペンベック、グラス、レンツ、クリストフ、イストラティ程度。ノーベル文学賞受賞作家も多く輩出し、壮絶な体験に基づく優れた作品も多いのですが、自らの不勉強に恥じ入るばかりです。とりあえず「東欧の想像力シリーズ」くらいは読み通しておきましょう。

 

2023/1