りぼんの読書ノート

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物語ウクライナの歴史(黒川祐次)

2022年2月のロシア軍侵攻以来、ウクライナの情勢から目が離せません。これを機会にウクライナの歴史を学び直そうとした人も多いようで、本書もいきなり図書館の貸出申込が長いリストとなり、1年待ちになってしまいました。

 

2014年にロシアがクリミアに侵攻するまで、ウクライナの歴史というものをほとんど知らなかった人は多いと思います。9世紀後半に建国されたキエフ大公国がモンゴルによって征服された後、スラブの中心がモスクワに移ってしまったことで、キエフの歴史はロシアに継承されてしまったのです。現在のウクライナ地域はその後、ロシア、ポーランドリトアニアオーストリアハンガリーオスマン・トルコなどに分割統治され続けました。ロシア革命直後にウクライナ人民共和国がようやく成立したものの、直ちにソビエト連邦の一部とされてしまったことは周知の通り。ソビエト連邦の崩壊後の1991年に独立を果たすまで、ウクライナという国家は存在しなかったといっても過言ではないでしょう。その間、ウクライナの国土は度重なる戦争に蹂躙され、ウクライナ民族は支配され続けていたわけです。

 

思えばウクライナは「穀倉地帯」としてしか紹介されてきませんでした。ウクライナが輩出した、ゴーゴリチャイコフスキーホロヴィッツリヒテルニジンスキーブブカコロリョフなどの文化人、芸術家、スポーツ選手、科学者などは、私たちの記憶の中では「ロシア・ソ連」の人となっています。ドニエプル川も、ドネツ炭田も、チェルノブイリ原発も、ウクライナが独立するまでは「ソ連のどこか」というイメージしかありませんでしたし。

 

もちろん今は違います。ウクライナがロシアと一体不可分であるとか、ロシアに従属する「小ロシア」であるとかいう論理は、すべてロシア側の見解にすぎないことを、世界中が知っています。そしてウクライナ民族が、ようやく手に入れたウクライナという国家をいかに大切に思っているかということも。

 

ウクライナ大使を務めていた著者は、「ウクライナが独立を維持して安定することは、ヨーロッパ、ひいては世界の平和と安定にとり重要である。これはアメリカや西欧主要国の認識であるが、中・東欧の諸国にとってはまさい死活の問題である」と本書を結んでいます。まだクリミア侵攻・占領も起こる前の2002年に出版されたにもかかわらず、今日の事態を予言しているかのようです。

 

2023/4