りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

犬の心臓・運命の卵(ミハイル・ブルガーコフ)

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ウクライナ生まれのロシア人にとって、革命後の内戦期は生きることが難しい時代だったようです。首都キエフの支配者は、ウクライナ人民共和国赤軍ウクライナ国、ドイツ帝国、白軍と次々と変わり、当時20代の青年であった著者も、何度も異なる軍隊に勤務することになったというのですから。後に著した「奇想天外な空想科学小説」が、体制批判の書として発禁処分とされた背景には、そのような事情もあったのでしょう。

「犬の心臓」
1920年代のモスクワで、若返りの研究をしている外科医が、飲んだくれて死んだ無頼漢の脳下垂体と精嚢を、野良犬への移植を試みます。すると野良犬は次第に人間のような姿になって、言葉を話し出すのです。しかしその内容は、野卑で、教条的で、性欲丸出しで、それでも人権を求めて革命委員会にブルジョアの外科医を訴えるという知恵は回るのです。もちろん批判されているのは、無頼漢に権力を与えてしまった革命政権ですね。

「運命の卵」
動物学者が、繁殖力を高める生命光線なるものを発見。検証も済んでいない光線なのに、食料不足への手っ取り早い対策として、役人が実用化をしてしまいます。鶏卵を巨大化させようとしたのに、巨大な殺人アナコンダが大量発生。怪獣と化したアナコンダは、ついにモスクワを包囲するのですが・・。やはり「冬将軍」は強いのですね。どこが発禁処分なのかとも思いましたが、光線が赤色だったのがよくないのでしょうか。「光線=マルクス主義」、「役人=ソヴィエト政府」とも読めるのです。

2016/11