りぼんの読書ノート

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驚異の発明家の形見函(アレン・カーズワイル)

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1983年、執筆者がパリの骨董品オークションで入手したがらくたの詰まった函は、産業革命以前のフランスで、自動人形の開発に心血をそそいだ天才発明家の「形見函」でした。10の仕切りのなかには、それぞれ、広口壜、鸚鵡貝、編笠茸、木偶人形、金言、胸赤鶸、時計、鈴、釦、そして最後のひとつは空のまま。無名の発明家の生涯に関心を持った執筆者は、彼の生涯を追いかけます。

物語はフランス革命前夜に始まります。ジュネーヴの外科医が、クロード・パージュ少年の、不思議な形をした黒子のついた指を蒐集のため、故意に切り落としてしまったのです。不具になった少年を憐れんで教育した領主のもとで、少年は天才ぶりを発揮するのですが、やがてある誤解が2人の運命を分かつことになります。革命前のパリにやってきた少年は、旧態依然とした徒弟制度のもとで搾取されつつも、独創性を発揮していきます。

やがて破産した旧領主と再会。実は旧領主は音楽を奏でる自動人形の調整がうまくいかず、癇癪を起して人形を壊してしまったのですが、それを陰から目撃した少年は殺人と誤解してしまったのです。ここにきて少年の目的は定まりました。それは言葉を話す自動人形の制作。ようやく完成品を作り上げた少年は宮廷の寵児となったものの、自動人形に「皇帝陛下万歳」と語らせたことで革命後に裁判にかけられるのです。

アメリカとヨーロッパで育ち、フリーランスのジャーナリストとして10年の経験を積んだのちに小説家となった著者のデビュー作です。科学と魔術が混沌としていた産業革命以前の「技術」について、詳細に綴った著者の関心は、どちらに向かうのでしょう。続編も読んでみようと思います。

2017/11