りぼんの読書ノート

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村上春樹「騎士団長殺し」メッタ斬り!(豊崎由美、大森望)

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文学賞メッタ斬りの名コンビが、村上春樹さんの新作に挑んだ作品です。こんな企画が成り立つほど「現象化」しているわけですが、本書の冒頭で紹介された事例はもっとすごい。何しろ新作のタイトルだけが公表されていた時点で、どんな作品なのかを推理しあうTV番組まであったというのです。

本書には「村上春樹を愛するが故の苦言」が満ちています。どの作品も同じテーマの変奏曲である点や、主人公がいつも高等遊民的なモテ男である点や、SF/ファンタジー/ミステリなどのジャンル小説への敬意が足りない点などの指摘は、「作品の必然性」ということでやむをえないと思えますが、激しく同意せざるを得ないのは、「伏線はきっちり回収して欲しい」という不満。

騎士団長殺しのメインストーリーは、「妻からの別れ話、東北地方の放浪、肖像画家の才能の発現、小田原での生活開始、日本画騎士団長殺し」の発見、免色からの肖像画依頼、石室の発掘、騎士団長の登場、まりえの肖像画制作、まりえの失踪、病床の老画家訪問、「騎士団長殺し」に始まる異世界冒険、石室への脱出、まりえの失踪の解明、妻の妊娠と復縁」というところでしょうか。その間に、老画家のオーストリアでの体験が挿入されているのです。

メインテーマの理解は各人各様のものでしょうから、置いておきます。しかし山荘に移ってから関係を持ったという20代女性は登場しませんでしたし、不倫関係を結んだ40代女性の娘の問題や、まりえの母親の服の由来や、宗教団体と関わっているらしいまりえの養父のことや、包丁の必要性や、消えた包丁の行方などは、謎のまま。何より主人公はともかくとして、免色までもが実子確認をしない理由が判然としないのです。著者にしかできないことでしょうが、誰か疑問を解消して欲しい!

ついでながら、各作品の各章のタイトルを並べた「村上春樹カルタを作って欲しい」という箇所では爆笑してしまいました。百人一首ばりに上の句と下の句を分けてもいいし、どの作品の第何章のタイトルなのかを当てさせるのもよいでしょう。それより、クイズ番組で「ハルキ王」を競わせても良いかもしれません。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年1Q84 Book1・21Q84 Book3女のいない男たちの「メッタ切り」も併録されています。確かに「多崎つくる」はツッコミ所が多い作品でした。

2017/11