りぼんの読書ノート

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あなたを選んでくれるもの(ミランダ・ジュライ)

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孤独のさまざまな姿を描きながら、孤独を介しての繋がりという裏返しの希望を期待させてくれたいちばんここに似合う人に続く作品は、「インタビュー集」というノンフィクションでした。映画監督でもある著者は、行き詰った脚本執筆から逃れるために、フリーペーパーに売買広告を出す人々を訪ね始めたのです。

そもそも、このネット時代に紙媒体を使って売買公告を出すということ自体に、既に負の意味があるのです。革ジャンを売りに出した性転換途中の老人。オタマジャクシを売りに出している黒人高校生。ガレージセールで買いあさった赤の他人の写真アルバムを売る、ギリシャ移民の主婦。女優に似せたマネキンを部屋に置く孫を持つ、古いスーツケースを売りに出した老女。子供向けの本を売る、足にGPS装置をつけた仮釈放中の男・・。

彼らの多くは著者をうんざりさせるのですが、やがて奇跡が起こります。「人間の生の営みの大半はネットの外」にあるという当たり前の事実に気付いた時に、滞っていた脚本が進み始めたというのです。そして、最後のインタビューで出会った老夫婦ジョーとキャロリンの存在は、映画にも決定的な影響を及ぼすに至ります。

誰もが自分の人生の主役であると同時に、他人の人生の脇役であるという当たり前の事実は、映画に限ったことではありません。「人はみんな自分の人生をふるいにかけて、愛情と優しさを注ぐ先を定める。そしてそれは美しい素敵なことなのだ」という著者の言葉は、ネットの外で実在感と質量感を備えた生身の人間と接することなしには生まれなかったのでしょう。

2016/11