りぼんの読書ノート

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けさくしゃ(畠中恵)

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「けさくしゃ」とは「戯作者」のこと。文化文政から天保の時代に、『偽紫田舎源氏』などのヒット作を生み出した柳亭種彦を主人公にした「お江戸人情ミステリ」。主人公のキャラが「病弱なハンサム」というのでしゃばけと似た雰囲気もあるのですが、こちらはお江戸の出版事情に踏み込んだ内容になっています。なんせ種彦を見込んで戯作を書かせようとする版元が、山青堂(今の三省堂?)なのですから。

無役の小普請ながら200俵取りの旗本であった種彦には、どうしても戯作者ろして身を立てなくてはならない理由はありません、それどころか、大衆文化への取締りの厳しい江戸社会では、武士が戯作を書くことはリスクだったのです。

デビュー作のプロットになったのは「茶屋の娘が純情青年の小金をだまし取ろうとした実話」。謎のベストセラー作家・覆面頭巾の正体は「書くことを許されない立場の人」。種彦の戯作に海賊版の疑いがかけられた背景にあったのは「長年に渡る江戸と上方の版元の軋轢」。ご政道批判の疑いを賭けられた友人の疑惑を晴らすためには「覆面頭巾と協同で真犯人を推理」。戯作が芝居に使われて売れた途端、役者が殺害された事件では、容疑者扱いすらされてしまいます。

あらためて連作短編の並び順を見ると、江戸期の出版事情を紹介して戯作者になるリスクを読者に説明しながら、それでも書かずにはいられない種彦と、彼の背中を上手に押す山青堂の姿を描いていくという、上手な構成になっています。

2016/11