りぼんの読書ノート

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ノーホエア・マン(アレクサンダル・ヘモン)

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著者はボスニアサラエヴォ出身ながら、シカゴ滞在中に内戦が勃発して帰国できなくなったといいますから、映画「ターミナル」の主人公と同じ状況。そのままアメリカに残る選択をし、英語をゼロから学びながら作家を目指した経歴の持ち主です。

本書は、著者の分身と思しき青年ヨーゼフ・プローネクを複数の視点から眺めるという形式で書かれた、実験小説的な作品になっています。各章の語り手の関連が不明なままであることや、謎めいた最終章を、統一性の欠落と見るか、読後の余韻と見るかは、意見の分かれることでしょう。

第1章:過ぎ越しの祭り(シカゴ1994)
英会話教師の職を求めて面接に出かけた「私」は、怒ったような顔つきで英語を学んでいるヨーゼフを見かけます。彼はサラエヴォ時代の幼馴染だったのですが、ヨーゼフには負い目があり、声をかけることはできませんでした。「負い目」が何なのか気になるのですが、この話はここで終了。

第2章:イエスタデイ(サラエヴォ1967-1992)
一人称で語られるヨーゼフの幼年~青年時代。ビートルズに憧れてバンドを組んだヨーゼフは、詩人を目指したのですが、優れた作品を著すことなどできませんでした。それでも、キエフのサマースクールでソ連崩壊を経験した後、アメリカ文化センターから招待されてシカゴへと渡ります。

第3章:父祖の地(キエフ1991)
キエフのサマースクールに参加してヨーゼフと出会ったアメリカ人は、その場で体験したソ連崩壊のさなかに、ヨーゼフに対して同性愛的な感情を抱いていたことに気づきます。

第4章:ヨーゼフ・プローネクによる翻訳(サラエヴォ1995)
ヨーゼフが、かつてのバンド仲間だったミルザから受け取った手紙は、ボスニア内戦の悲惨さを伝えるものでした。訳文の拙さが、ヨーゼフがまだ英語をマスターしていないことを示しています。

第5章:深い眠り(シカゴ1995)
シカゴで警備の仕事に就いたヨーゼフは、ムスリムを憎んでいるクロアチア移民の男と出会います。アメリカは移民の国なのです。

第6章:兵隊たちがやってくる(シカゴ1997-1998)
グリーンピース活動をするヨーゼフは、英語に苦しみながら、移民の国アメリカで自分のアイデンティティを失いそうになって涙を流します。時に荒々しい気持ちになっても、この感情には出口はありません。

第7章:ノーホエア・マン(キエフ1900-上海2000)
戦前の上海で暗躍する亡命ロシア人スパイのピックは、ヨーゼフ・ピローネクという偽名を使っていました。時は飛んで2000年。新婚旅行で上海を訪れた夫婦は、ピックが使っていたホテルの部屋に泊まります。物語は、「身体の奥から悪が生まれ出る感覚」で終わるのですが・・。

どうも消化不良です。他の作品も読んでみないと、著者の作品を理解できないのかもしれません。ちょうど「白水社エクス・リブリス」から出版されたばかりの愛と障害も読んでみましょう。

2014/6