りぼんの読書ノート

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ペテロの葬列(宮部みゆき)

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『誰か』名もなき毒に続く「杉村三郎シリーズ」の第3弾です。このシリーズのテーマは「現代社会における悪意と対峙せざるをえなくなった一般人」とでもいうものでしょうか。本書で主人公が向き合うものは「伝染する悪」でした。

今多コンツェルン会長の娘婿ながら企業内では末端の広報編集業務に携わっている杉村三郎は、引退した元役員の回顧談を聞きに行った帰りに、拳銃を持ったバスジャック事件に遭遇します。事件は数時間で解決しい、犯人の老人は自殺するのですが、そこからが謎の始まりでした。事件に巻き込まれた7人の乗客と運転手に後日送られてきた「慰謝料」とは何なのか。調査を始めた杉村は、事件の裏に隠された真の動機に気づいていきます。

バブル期に多くの企業でも取り入れられながら受講者の自殺や心身疾患を多発させて下火になった「センシティビティ・トレーニング」なるものは、「マルチ商法」と深い関わりを持っているそうです。「自己啓発」の手法が洗脳を含む勧誘手法と同じなのです。実際に、かつての講師の多くが、後にマルチ商法と関わっているとのこと。被害者が勧誘を通じて加害者となっていく仕組みは、まさに「伝染」です。

本書で取り上げられている「悪意」はそれにとどまらず、「社内の噂」や「ネットで増幅される中傷」にまで広がっていきます。そして、主人公が今後の転進を余儀なくされる「驚愕のラスト」へと結びついてくのですが、この驚愕度合いは半端ではありません。まあ、伏線はあったのですが、このラストへ向かう道筋を本線として読むと、まったく異なる読書体験となってしまうかと思うくらい。もちろん次巻が気になります。

2014/6