りぼんの読書ノート

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鈍行列車のアジア旅(下川裕治)

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バックパッカースタイルでの旅を書き続けている著者が、アジア各国の各駅停車での旅を綴った「鈍行列車紀行」です。

というと、のんびり感が漂う牧歌的な旅を連想してしまいますが、実態は決してそんなものではありません。硬い座席に長時間座り、不便な乗り継ぎで長時間待たされ、早朝深夜の出発も当然。言葉も通じないローカル駅で、安宿や食堂を探す。その背景には、アジア各国で各駅停車の便がどんどん消滅しているという事情もあるのです。

本書に収録されているのは2010年の旅行事情ですので、5年後の現在では、もっと事態は進んでいるのでしょう。日本だって、長距離線はほとんど特急になってしまっているのですから。

「第1章 マレー鉄道―バンコクからシンガポールへ」
英語版の時刻表には載っていない列車がタイ語版にはある? それだけではありません。現地の駅に行ってみないと存在がわからない便すらあるのです。物売りは自由自在に乗ってくる。国境では時差のせいで乗り換えに失敗。「時間も速度もどこ吹く風」の鈍行列車旅です。

「第2章 ベトナムホーチミンシティからハノイへ」
各駅停車は1日1本。駅の切符売り場だって、昼寝時間は2時間半もクローズ。ゴザ持参なのは通路で寝るため。炎天下で炭火を起こして煮炊きする。南北格差も大きく残っていそうです。

「第3章 台湾―台湾一周」
漢民族が住む西部幹線と、先住民族が多く住む東部幹線では、雰囲気が全く変わるというのは頷けます。もちろん貧富の差も・・。

「第4章 韓国―釜山からソウルへ」
釜山を出た鈍行列車は、何度も何度も韓国版新幹線(KTX)に追い越されてしまいます。でもソウルに近づくと、気分はもう通勤列車。この付近で各駅停車は、地下鉄延長線しかないようです。

「第5章 中国―北京から上海へ」
ローカル線だって座席指定。しかもほとんど満席で立ち席切符しかない。やっと座席をとっても、身動きできないほど満員の硬座列車で、一夜を明かすのはつらい。しかも700キロ。

「第6章 フィリピン―マニラからビニャンへ」
災害で寸断された線路は復旧されず、一時は1000キロ以上もあったのに、残っているのはたったの40キロ。その線路を走るのは電車だけではありません。手押しのトロッコも立派に市民の足なのです。

「第7章 中国東北部―大連から長春へ鈍行はなくなっていく」
鈍行列車はすでになくなっているのでしょうか。2階建ての列車は、料金が高いのに、座席もスペースも従来の列車と変わらない。満州国の歴史を思いながら旅情にふけるのは、日本人だけなのでしょうね。

2015/3