りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ひこばえに咲く(玉岡かおる)

「ひこばえ」とは、樹木の切り株や根元から新たに生える芽のこと。樹勢が強いため、青森県の特産であるリンゴでは、ひこばえを接ぎ木の台木として使っているとのこと。本書は、津軽のりんご園に生まれ育って画家となりながら、最晩年になって「発見」された「大地の画家」常田健をモデルに描かれた作品です。

 

銀座の画廊主であった父親が引退した後、進むべき道を見失って妻子ある男との不倫関係に逃避していた香魚子は、たまたま手にした画集からケンという画家を知り、雪の津軽に向かいます。彼女がそこで発見したのは、土蔵の中に無造作に置かれた150点の絵画でした。「ただ絵を描けばそれでいい」という無欲のケンの背中を押して、彼の個展を開き、彼の作品を展示する美術館を開館するための香魚子の奮闘が始まります。

 

ケンをオヤブンと呼ぶ弟子のフク、従兄の号基(モデルは阿部合成)との関係や、周囲の人々の思いや、絵画業界の現状なども書き込んだ作品です。まるで原田マハさんの作品のような美術小説ですが、神戸出身で地元に係るテーマの作品ばかりを書いてきた著者が、どうして青森県の画家を主人公としたのでしょう。著者は、よほどケンの絵に惚れ込んでしまったということなのでしょうか。

 

ケンのアトリエであった土蔵を利用した「常田健 土蔵のアトリエ美術館」は、ケンの死後、2005年に長けられました。しかし青森市浪岡という不便な立地のため、近年は入場者数も伸び悩み、コロナ禍の影響を受けて現在休館中だとのこと。リンゴ園の中に建つという美術館を、ぜひ訪問してみたいものなのですが。

 

2022/12