りぼんの読書ノート

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民宿雪国(樋口毅宏)

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これは「奇書」ですね。「国民的画家の丹生雄武郎が、大勢に惜しまれながら97歳で亡くなった」という冒頭の1ページからは想像もつかない展開の3つの章が続き、続く章でようやく前後が繋がったと思ったら、最後にまたそれが覆されるのです。

老境に入ってから画家として著名になる前の丹生は、新潟県の片田舎で寂れた民宿「雪国」を営んでいました。車椅子に乗った老人でしかない丹生の前に登場する犯罪者たち。強者と弱者の立場が二転三転する中で起こる大量殺人事件。丹生は極悪非道の殺人者だったのです。しかしそれだけではありません。民宿雪国で働いたことがあり、彼を人徳者と慕う人間たちもいるのです。それはあたかも、猟奇犯の阿部定、ホテル王の横井英樹、あの浅原彰晃を思わせる人物たち。裸の大将・山下清が長逗留していたこともあった模様。

やがて丹生が細々と描いていた絵画が紹介されると、瞬く間に世界的名声を得るに至るのですが、それも詐欺的な画商によって仕組まれたものでした。そんなものに世界中の美術館定家が騙されるのかという疑問は、ひとまず置いておきましょう。最終的に物語がたどりつく丹生の真情の前では、そんなことは消し飛んでしまうのです。

これほど奇想天外な作品が長く出版されなかった理由は明白です。本書は、在日韓国人の問題や、慰安婦問題に深く踏み込んでいるのです。わざわざ巻末に、在日2世の梁石日町山智浩と著者の対談を加えているのは、「誤解」を避けるための措置ですね。「小説界が驚倒した空前絶後、衝撃の大傑作」とのコピーは、少々おおげさに思えますが、「奇書」であることは間違いありません。

2019/1