りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ふくろう(梶よう子)

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江戸城内での刃傷事件は7件あったそうです。吉良上野介田沼意知堀田正俊らが斬られた事件は有名ですが、本書は旗本の松平外記が同僚3名を殺害、2名を傷を負わせた一番最後の刃傷事件を題材にした作品。今でいう職場内パワハラに耐えきれなくなったことが原因とされています。

本書は、松平外記の息子であることを知らされず、親友のもとに養子として引き取られて成人した主人公・伴鍋次郎の視点で描かれます。役目にも付き、結婚を控えて人生これからという時に、不思議な老人と出会ったことからルーツ探しが始まります。そして洗い出されていく、実の父親が起こした事件の真相。息子・鍋次郎の現在の視点と、父親・外記の過去の視点が交互に描かれる中で、父の義憤と無念は息子に引き継がれたかに思えるのですが・・。

世の中には救いの手が及ばないことを知りながらも、人はそれぞれの状況の中で生きて行かなくてはならないようです。ヨイ豊直木賞候補となった著者の初期の著作であり、少々堅苦しさが目立つものの、後の飛躍を感じさせる作品です。

2019/1