りぼんの読書ノート

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アキレス将軍暗殺事件(ボリス・アクーニン)

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日本語の「悪人」からペンネームをとったという、日本通ロシア作家が、19世紀末の世界を舞台にして、ロシアの若き外交官ファンドーリンを活躍させる人気シリーズの第2弾です。

前作のリヴァイアサン号殺人事件は、彼が日本へ赴任する途中での出来事でしたが、本書の事件は、モスクワに帰任した日に起きたもの。ロシアの国民的英雄で「アキレス」と呼ばれる将軍が、ホテルの部屋で突然死するのですが、将軍の側近たちはなぜか真相を伏せようとします。

どうやら、女性の部屋で不名誉な死に方をしたようなのですが、事件の背後には、ロシアの政治権力を巡る陰湿な闘争がからんでいるらしい。ファンドーリンは、二転三転する捜査の中から浮かび上がってきた、恐るべき暗殺者と死闘を繰り広げることになるのです。

グランドミステリーとして書かれた前作とは、だいぶ趣が変わりました。本書の40%以上もの分量が、まるで「ゴルゴ13」のように冷徹で、必ず仕事をやり遂げるという暗殺者に対して割かれているのですから。暗い生い立ち、女の子として尼僧修道院で育った経歴、淡い初恋、犯罪者の叔父による訓練、両親の仇への復讐、暗殺者としての名声。そして、最後の仕事と決めたこの事件で、彼も政治権力から裏切られ生き延びるチャンスをかけて、ファンドーリンと闘うのですが・・。「アキレス」の異名は、殺された将軍より、むしろ暗殺者にふさわしい。暗殺者が見せた唯一の弱点は、「アキレスのかかと」のよう。

前作がクリスティなら、本書はルパン対ホームズでしょうか。主役は、名探偵よりも、憂いを帯びた魅力ある悪役なのですから。『リヴァイアサン号殺人事件』より、こっちのほうが、好みに合いました。
このシリーズ、1作ごとに趣向を変えているのかもしれませんね。

2007/5