りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

バルザックと小さな中国のお針子(ダイ・シージエ)

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文化大革命時、再教育のため農村に下放されていた知識人子弟の世代は、いまや40~60代。中国外に出て文筆活動を行っている者も多く、『ワイルド・スワン』や『睡蓮の教室』など、「下放体験記」ともいえるジャンルを形成している感すらあります。著者の青年時代の体験をもとにフランス語で書かれた本書もそんな一冊。数年前に映画化されています。

チベットにもほど近い、文明からは隔絶された山中の寒村に下方された、当時17~18歳の主人公と友人ルオ。厳しい労働に明け暮れるなかで、村にただ一軒ある仕立屋の美しい娘(小裁縫)に恋をします。(ですから、「お針子」というのは正しい訳語ではありません)

もうひとつ彼らを変えたものは、やはり下放されていた小説家の息子がカバンに隠して持っていた、西洋文学との出会いでした。2人して、バルザックを、ロマン・ロランを、フローベルを、デュマを夢中になって読みふけり、彼らの「生と性」は目覚めていきます。

小裁縫と恋仲になったのは、ルオのほうでした。小裁縫に教養を身につけて欲しいと思ったルオは、彼女に向かって小説を読み聞かせるのですが、本によって大きく運命を変えることになったのは、彼女のほうだったのです・・。

大切にしていたバイオリンを、村人たちに壊されそうになった主人公が、とっさに「モーツアルトの毛主席を偲ぶ曲!」を弾いて助かったことや、マラリアで苦しむルオを、薬草で治そうとする小裁縫のエピソードなど、下放時代の苦しい生活が、牧歌的に描かれている場面も多いのですが、大切にしていた本を、2人して火にくべるエンディングは、ほろ苦さを感じさせてくれます。

下放」という歴史的現実の厳しさを描きながら、ほのぼのとした雰囲気を漂わせている一冊です。その後の小裁縫には、幸せな人生をおくっていて欲しいものですが・・。

2007/5