りぼんの読書ノート

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サイバー・ショーグン・レボリューション(ピーター・トライアス)

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第二次世界大戦の勝者が枢軸国側であり、アメリカは日独に分割統治されているという設定の歴史改変SFは、『ユナイテッド・ステイツ・オブ・ジャパン』と『メカ・サムライ・エンパイア』に続く本書で完結します。

 

第1作が1988年、第2作が1990年代を舞台としていたのに対し、本書の舞台は2019年。前作から20年以上が経過しているわけですが、アメリカの状況はそれほど変わっておらず、今や対立する日独は沈黙線を挟んでにらみ合っています。日本軍がガンダムのような機甲戦士を主力としているのに対し、ドイツ軍の主力は遺伝子組み換えによるバイオ兵器。ナチスが生体実験をしていたことからの連想なのでしょう。現在でも人種差別や拷問を温存させているドイツに比べると、日本の統治はまだマシなのですが、強大な特高権力や日本文化の押し付けなど、日本人としては心痛む設定も多いのです。

 

本書の主人公は、若き機甲戦士である守川励子。仇敵ナチスと癒着しているという日本合衆国総督を倒すために決起した軍人の秘密組織「戦争の息子たち」に参加しています。クーデターは成功したものの新政権も厳しい粛清を行って失望の空気が生まれつつ中で、ブラッディマリーと名乗る謎の暗殺者が「息子たち」の会員を次々に殺害するという事件が発生。幼馴染の特高警察官ビショップとともに捜査を進める励子が見出したものは、機甲軍のエースパイロットたちを含む新たな陰謀だったのです。

 

巨大剣や電磁銃や寄生微小ロボットや加速装置を繰り出しての、機甲戦士どうしの戦いは大迫力。第1作で若き特高警察官であった槻野昭子は警視監に昇進しており、第2作で士官学校の訓練生であった優等生お嬢様の橘範子は結婚で名字が変わって大西範子となっていますが、少佐に昇進してメカ基地司令官になっています。橘範子がアフリカ系日本人だったとは、前作の時点では全く気づきませんでした。天才的な問題児であった久地樂も再登場。皆、重要な役割を果たします。

 

ブラッディマリーの正体はあまりにも意外でしたが、はじめは敵対していた主要な登場人物たちが最後に目指すものはあまりにもアメリカ的。それはもちろん独立なのです。著者の日本文化への傾倒ぶりも随所に現れる、楽しい三部作でした。もともとSF小説家ではない著者は、本書をもってこのシリーズを終了するとのことですが、続編も書いて欲しいものです。ドイツ領アメリカでも独立運動が起こりそうな気配もありましたし。

 

2021/2