りぼんの読書ノート

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実朝の首(葉室麟)

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鎌倉幕府三代将軍の源実朝鶴岡八幡宮で甥の公暁に暗殺され、さらにその公暁も殺害されたことで、源氏の嫡流が絶えたのは1219年のこと。その機に乗じた後鳥羽上皇が起こした承久の乱を、北条氏が鎮圧して、執権政治が開始されたことは歴史的な事実です。しかし、暗殺された実朝の首が消えていたことは知りませんでした。本書は、消えた「実朝の首」の行方を中心に据えて、歴史の行間に挑んだ作品です。

本書において実朝の首を持ち去ったとされるのは、公暁の乳母子で実朝暗殺の場に居合わせた弥源太という美青年です。弥源太は北条氏に組する三浦一族の一員なのですが、先に北条氏に滅ぼされた和田一族の残党らに拉致されてしまい、朝廷に親王将軍を要望する北条義時は難しい立場に追い込まれてしまいます。権力の後継者にとって、旧主の葬儀を無事に司ることは最大の重要事項なのですから。

和田朝盛や朝夷名三郎らが幕府を相手にして館に立て籠もる合戦は痛快ですが、後鳥羽上皇の意を受けた密使やスパイとの駆け引きもスリリング。実朝暗殺を公暁に焚きつけた黒幕は誰かというミステリ要素も含んでいて、エンタメ性も十分に満たしている作品です。

そして次第に、「北条政子の真意」という、本書のテーマが明かされていきます。政子が自分の後継として託したのは、後に将軍となる摂関家の幼児・藤原頼経に嫁がせた鞠子でした。頼家の娘で公暁の妹である鞠子は、当然のことながら源氏の頭領の血を引いており、政子の孫娘なのです。つまり、源氏の血は女系で伝えられたということなのでしょう。

承久の乱へと至る終盤は盛り込み過ぎの感もありますが、その後の著者の活躍を予見させる作品です。

2017/9