りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

リボルバー(原田マハ)

パリ大学で美術史の修士号を取得した高遠冴は、パリの小さなオークション会社に勤務する傍ら、ゴッホゴーギャンをテーマに博士論文を執筆中。日頃は二流以下の出品物しか扱えない会社に、ある日錆びついた一丁のリボルバーが持ち込まれてきます。持ち主の中年女性サラによれば、それはゴッホが自殺に使用したものだというのですが・・。

 

さっそく調査を始めた冴の前に、次々と謎が現れてきます。そのリボルバーは、かつてアムステルダムゴッホ美術館で展示されていたものとは異なっているし、サラと旧知の仲であるオーヴェールの「ゴッホの部屋」館長は、「それはサラが持っているゴーギャンリボルバー」ではないかというのです。ゴッホゴーギャンはアルルで共同生活をしていた時期もあり、仲違いの末に起こった「ゴッホの耳切り事件」の後は顔を合わせることもなかったはずなのに。

 

アルル以降のゴッホは、1年半後に自殺したとされています。しかしサン=レミの精神療養所とパリ郊外のオーヴェールで暮らしたその期間に、数多くの大傑作を生みだしました。一方のゴーギャンは、ゴッホの死の半年後にタヒチに移り住んで独自の芸術世界を切り開いた後に、最後はマルキーズ諸島で病に倒れました。ゴッホの絵が生前1枚も売れなかったことは有名ですし、ゴーギャンの作品も高い評価を得ることはありませんでした。では2人はそれぞれ、失意の中で世を去ったのでしょうか。

 

『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』などのアート・ミステリーの第一人者は、ゴッホの死の真相に新たな解釈を付け加えてくれました。そして、新しい絵画の創造に全ての情熱を捧げた孤高の天才画家たちの関係や心情を、見事に描き出してくれたのです。全ては推測でしかありませんが、「このフィクションが真実であって欲しい」と思わせてくれる作品です。

 

2022/11