りぼんの読書ノート

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愚かな薔薇(恩田陸)

恩田陸バージョンの『地球幼年期の終わり』とでもいえる作品です。少年少女たちが新人類へと進化を遂げていく物語。ただし時代設定は無茶苦茶です。1万数千年後に地球が太陽に飲み込まれるというのに、どこかノスタルジックな雰囲気を漂わせているのですが、そのあたりは気にしないことにしましょう。

 

14歳になった奈智が母の故郷である磐座を訪れたのは、夏祭りの時期をはさんで開かれる長期キャンプのためでした。しかしそのキャンプは、選ばれた者を対象にして、「虚ろ舟」と呼ばれる恒星間宇宙船の乗員になるための適正を見極めるためのものだったのです。そして奈智の両親は、かつてここで亡くなっていたのです。それも異常な死に方で。

 

磐座の地が抱える謎、虚ろ舟の正体、適正者となるための変質の意味などが次第に明かされていきます。どうやら虚ろ舟乗りになるには、吐血を繰り返しながら他人の血を飲み、年を取らない体に変質しなければならないようなのですが、では本書は吸血鬼の物語なのでしょうか。本能的に変質を拒みながら、両親の死の謎を探る奈智を待ち受けているのは、どんな運命なのでしょうか。やがてキャンプに参加した少年少女たちは変質の時を迎えるのですが、それは第一段階にすぎなかったのです。

 

物語の骨格はSF的なミステリですが、本質的には少女の内面的な葛藤の物語なのでしょう。強い疎外感に苛まれている少女が、自分と世界を受け入れていく過程の描写が秀逸なのです。ちなみに物語の舞台である磐座のモデルは郡上八幡だとのこと。著者はかつて「ここに空飛ぶ円盤が飛んできたらすごく絵になるな」と思ったと語っています。

 

2023/10