りぼんの読書ノート

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セレモニー(王力雄)

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共産党建党記念祝賀行事と北京万博が重なる式典年の中国で、感染症パニックが発生。しかしこれは、功を焦る国家安全委員会メンバーが引き起こしたフライングでした。防疫活動を利用して競争相手を排除しようと目論んだ空騒ぎだったのです。WHOによってウイルス変異が否定されたことで、防疫活動の功労者として祭り上げられていた責任者は、最高権力者の主席からスケープゴートにされることを悟って、極秘の計画を進めるのですが・・。
 

 

国家安全委員会はまた、最新のテクノロジーを用いて国民支配を進めている部署でもありました。ビッグデータアルゴリズムやグリッドシステムなどの実用化に加え、靴にマイクロチップを仕込んで個人の動向を全て監視するIOS(インターネット・オブ・シューズ)、性欲や記憶を操作するドリームキャッチャー、超小型ドローン技術を用いた電子蜂などの技術も登場。IOSを活用した「性交時靴間距離」には笑いましたが、全ての男女関係が把握されるというのも恐ろしいことです。 

 

著者は少数民族の権利の尊重を用いて求める声明を起草するなどの活動を行い、チベット人作家である妻の作家ツェリン・オーセルとともに軟禁状態にあるとされています。本書は混乱の中に終わりますが、著者がその先に見ているものは、「民主主義とテクノロジーの統合」こそが「テクノロジーによる独裁」を倒すことができるという未来への希望であるようです。 

 

もちろん本書は、小説としても優れているのです。国家安全委員会でコンピュータエンジニアを務める李博と疾病予防エンターに勤務する医師の伊好の夫婦は、エリートであっても権力者からみたらとるにたらない存在でしかありません。しかし社会的に弱い立場にある小人物であっても権力闘争の行方を大きく左右することがあるというもうひとつのテーマが、本書の物語姓を膨らましているのです。 

 

2019/10