バブル崩壊後の日本で不良債権の重みに潰れた企業を買い叩き(『ハゲタカ』)、カリスマ経営者のもとで経営判断を誤った企業の買収戦争に乗り出し(『バイアウト』)、中国ファンドから狙われた日本最大の自動車会社をめぐる謀略戦でキーパーソンとなった(『レッドゾーン』)鷲津政彦が、リーマンショックに乗じて仕掛けた戦いとは何だったのでしょう。
著者のテーマは明快です。リーマンショックとは、「欲望(greed)が善(good)であった時代の終焉」だというのです。サブプライムローンというゴミくずに信用を与え、デリバティブという形で膨張させて世界中にばら撒く過程で巨利を得ていたことは、いわば国家規模での詐欺のようなもの。さらに、その戦犯たちを守ろうとした時点で、アメリカが理想としていたものは変質してしまったのです。
アメリカを象徴する超巨大企業の買収に乗り出した鷲津の前に立ちはだかるのは、「市場の守り神」サミュエル・ストラズバーグ。国家権力を用いての露骨な介入、ダブルスタンダードの横行、人種差別的な愛国心に訴えて「侵略者」呼ばわりと、高圧的な態度でやりたい放題。一方で、投資銀行の幹部たちのモラルハザードぶりも凄まじい。「強欲におぼれた愚かなアメリカにお灸をすえる」と啖呵をきって、憎まれ役となってしまった鷲津の試みは、成句するのでしょうか。
実際のリーマンショックの際には、破綻した投資銀行を除いては、大きな買収劇は起こりませんでした。それは何故なのか。その裏では何が起こっていたのか。過去3作では徹底的にリアリティを追求していましたが、本書の結末はさすがにフィクションですよね。痛快すぎますから。せめて、アメリカ資本主義が育んでいた「健全性」の部分は、リアルであって欲しいものですが。
2014/9