りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

世界が終わるわけではなく(ケイト・アトキンソン)

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博物館の裏庭での著者による、12の掌編は緩やかに繋がっていますが、それだけではありません。これらの物語は、変身をテーマとした「危機の時代の『千夜一夜物語』」だったようです。

窓の外では銃撃戦が繰り広げられ、何週間も降り続く雨によってシリアスな感染症も蔓延し、物資も不足してきました。まさに世界が滅びようとしている中で、2人の女性がとりとめのない世間話を続ける「シャーリーンとトゥルーディのお買い物」。この冒頭の作品は、ラストの「プレジャーランド」と直接結びついています。そこまで読み進めてはじめて、間にある10編の作品の意味が理解できるようになっているのです。

マイナス志向の母親は妊娠中。12歳のエディがマーブル模様の巨大魚になりたいと夢想する「魚のトンネル」。欧州を鬼門とするゼイン家の出身で、不老不死の研究に憑かれたメレディスが「ラミアめいた老女」と出会うテロメア。子離れできない母親パムとゲームオタクの弟サイモンにうんざりしている医師レベッカが、救命活動をしながら音楽を感じる「不協和音」

結婚して父となるアディソンが、シングルマザーだった母をないがしろにした亡父の葬儀に出席する「大いなる無駄」。聡明な子守のミッシーが優秀な8歳の少年アーサーを連れて、狩りに出向くアルテミスのように空港へと向かう「予期せぬ旅」。自分の知らないところで自分に成り代わって悪さをしている男の正体を暴くドッペルゲンガー

飼いはじめた猫が大きくなっていき、気がつくと不実な男性のように振舞い始めている「猫の愛人」。突然死した妻ナンシー・ゼインの小指を形見として持ち続けた男の生涯を描いた「忘れ形見」。絶望的な交通事故に遭ったマリアンヌの身に起きた数奇な出来事を描く「時空の亀裂」。子離れできない母パムが教師を早期退職して、友人と冴えないビジネスを始める「結婚記念品」

神話のイメージに包まれた一連の作品は、それぞれ独立した短編としても優れています。変身とは、なんと孤独な行為なのでしょう。

2014/9