りぼんの読書ノート

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長女たち(篠田節子)

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医療ミステリの依頼を受けて執筆されたという、3作の中篇が納められています。本書のタイトルは、著者の経験から来ているとのこと。親を病院に連れて行ったり、介護の申請をしたりするときの書類に記入する、本人との続柄が「長女」ということで、思いついたそうです。

「家守娘」
痴呆の母を看護するために恋人と別れ、仕事も辞めた直美。家に残っている長女は当然のように当てにされ、さっさと嫁に行った次女は可愛がられる。そして思いがけない犯罪が起こり、思いがけない救いがもたらされるのですが・・。認知症の母とのやりきれないやりとりがリアルです。

「ミッション」
インドのヒマラヤ地方で僻地医療に従事しながらも、父を孤独死させた悔恨から抜け出せない頼子。しかし本書のテーマはもっと強烈です。長生きは幸福なのか。近代医療は必要なのか。超高齢化社会を迎えようとしている日本の常識が相対化されてしまいます。

「ファーストレディ」
老いとともに我儘になって病的な食習慣を改めず、ついに重度の糖尿病に罹った母に、腎臓を差し出すべきかどうか悩む慧子。外国人女性と結婚した弟は当てにできないが、迷惑はかけられないと言う母。では娘には迷惑をかけても構わないとの感覚はどこから来るのでしょう。

母にとって娘は自分の分身なんですね。「歳取って他人におしめを取り替えてもらうなんて惨めなことにならないように、必死で娘を育てたというのに」などと勝手なことを言われてしまう長女は、それでも貧乏くじから逃げ出せません。

著者は本書に関して「3・11から3年が経ち、『家族』や『絆』を重んじる風潮がピークに達している気がします。でも、その中で実際に出現する『地獄』をちゃんと見ろよ」と述べています。シリアスな思いが詰まっているものの、ほのかな希望も感じられる作品集です。

2014/9