りぼんの読書ノート

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メアリー・アニングの冒険(吉川惣司/矢島道子)

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著名なサイエンス・ライターであるサイモン・ウィンチェスター氏が世界を変えた地図において、「地質学の父」ウィリアム・スミスと同時代の人物として紹介していたのが、メアリー・アニング。閉鎖的で差別的であった19世紀の英国学会から、スミスと同様に無視され、後に高く評価されることになった女性アマチュア化石学者です。

イギリス南部の景勝地ライム沿岸の断崖は、化石の一大産地としても知られています。家具職人であった父親が結核で亡くなった後の家計を支えたのは、当時11歳のメアリーによる化石採集でした。実際には母や兄と一緒のファミリー・ビジネスだったようですが、化石蒐集家の学者たちを相手に商売をする才覚を持っていたのは、まだ幼いメアリーでした。

メアリーの三大発見は、魚竜イクチオサウルス、首長竜プレシオサウルス翼竜ディモルフォドンの全身化石です。生涯を通じて化石の発掘を続けて初期の古生物学に大きく貢献したわけですが、発掘に関する知識の面でも当代一流の学者たちにヒケを取らなかったようです。とりわけ、後にロンドン地質学会会長となるデ・ラ・ビーチ卿や、オックスフォードの名物教授であったウィリアム・バックランドは、彼女の識見を高く評価していたとのこと。

映画監督・脚本家の吉川さんと、古生物学者の矢島さんの共著である本書はは、ヴィクトリア期に「再発見」されたために、当時の道徳観という虚飾をまとってしまったメアリーの実像に迫っていきます。保守的な学会の重鎮を揶揄する詩を残すなど、かなりしたたかな女性だったようですね。もちろんそれも、彼女の魅力のひとつです。

彼女の肖像画の足元に描かれた愛犬が、本当はそこにあるはずのアンモナイト化石を覆い隠してしまっています。化石を発見したメアリーが発掘道具を取ってくるまで、その上にうずくまって化石を隠しておくのが得意技だったとのこと。でもそれじゃ、何の絵かわかりませんよね。

2014/9


【追記】ヴィクトリア期の道徳観というと、ナイチンゲールや、キュリー夫人や、ヘレン・ケラーら著名な女性の「公式伝記」が、みな「聖女性」を纏っていることで想像つくでしょう。男勝りだったり、お金にうるさかったり、まして浮気をすることなどは、決して許されないのです。