りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

儚い光(アン・マイクルズ)

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ナチス占領下のポーランド。両親と美しい姉ベラが捉えられた夜、かろうじて追跡を逃れた7歳の少年ヤーコブは、遺跡発掘をしていたギリシャ人地質学者アトスに救い出され、2人でアトスの故郷のザキントス島に脱出します。

アトスから息子のように慈しまれて育ち、学問に救いを見い出し、やがて移り住んだトロントで出会った奔放な女性アレックスと結婚したヤーコブでしたが、姉の記憶を消し去ることはできません。悲惨なホロコーストの記憶を消し去ってしまったら、姉は永遠に失われてしまうのではないかと怖れ、揺れ続けるヤーコブの心の深遠は、ついに妻からも理解されずに去られてしまいます。

やがて60歳近くなったヤーコブは、25歳も年の離れた若いミケーラとめぐり合い、ようやく理解者を得るのですが、その矢先に、再訪したギリシャで事故死。

しかし、彼は救われていたのでした。ヤーコブが生前に書き表した詩に傾倒した、若い詩人ベンによって発見された遺作には、「時は盲目の導き手である。死者のもとに留まることは彼らを打ち捨てておくこと」とあったのですから。

さらにミケーラは「女の子ならBella。男の子ならBela」とのメモを遺していたのです。ヤーコブは、ミケーラを通じて理解していたんですね。「わたしが壊れた状態であったことが、姉さんを壊れた状態のままにしていたのだ」と。

妻ナオミとうまくいっていなかったベンも、妻のもとに帰る決意をします。記憶が次の世代へと引き継がれ、語られなかった言葉が新しい世代に発見されるという希望を感じさせてくれる、珠玉の作品です。

2012/4