りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

道絶えずば、また(松井今朝子)

イメージ 1

世阿弥能楽風姿花伝からタイトルを採った時代ミステリー三部作の完結篇。

非道、行ずべからずで事件の原因になった三代目荻野沢之丞の後継者争いが再燃し、家、家にあらずで探偵役を勤めた若い瑞枝が大奥の年寄となって再登場するなど、完結篇にふさわしい物語となっています。

『非道』の事件から5年後、ついに引退を決意した荻野沢之丞が、一世一代の舞台で奈落に落ちて死亡するという事件が起こります。実子ながら芸に不安のある市之介と、養子ながら才能ある宇源次の2人の息子のどちらが名跡を継承するのか、周囲の目が集まる中で、宇源次に事故の責任を追及された大道具の甚兵衛が自殺してしまいます。

動揺した宇源次は谷中の感応寺に籠って修行をするのですが、そこで出会った美形で聡明な僧侶・日頌に傾倒していきます。しかし、感応寺という実在した寺院の名前を使ったのはどうなのでしょう。この寺が廃寺とされた理由は明らかなのですから。そこで、大奥の年寄に出世していた瑞江の出番となるんですね。^^

先輩同心の笹岡の娘を嫁にした薗部も、まさか笹岡の家が大奥と繋がっていようとは思わなかったでしょうね。かつて歌舞伎役者と通じた大奥女中が生み落とした女児を預かったのが歌舞伎界に詳しい笹岡家であり、その女児こそが瑞江だったのです。

本書はミステリであると同時に、市之介と宇源次の2人の息子がそれぞれ偉大な父を乗り越えようと決意する物語となっています。その意味でも、完結篇にふさわしいエンディングとなりました。

2012/4