りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ばんば憑き(宮部みゆき)

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宮部さん得意の「江戸不思議譚」では、怪異を垣間見てしまう怖さと、怪異の背後にある物語を知ってしまう恐ろしさが同居しています。怪異を生み出した因果を知ると、怪異から逃れられなくなってしまうのです。くなるのです。それと闘わない限りは・・。

「坊主の壺」
材木問屋の田屋重蔵に、流行り病を防ぐ聖の知恵を授けたのは、行き倒れた旅の坊主でした。重蔵の跡継ぎとなる条件は「見える」こと。そして使用人の身から跡取り息子の嫁になったお文は、重蔵の死後、思わぬところに重蔵の姿を見出します。それにしても「厄介な代償」は、少々イタい。

「お文の影」
ぼんくらシリーズのスピンオフ作品です。影踏みをする子どもの影がひとつ多いという、不思議な相談を受けた岡っ引きの政五郎。記憶力抜群の「おでこ」から聞き出した茂七親分の昔語りは、かつてその長屋があった場所で起きた悲しい事件でした。政五郎は子どもたちに、片耳の少女の影を見送らせます。それは同時にあやしの「灰神楽」に登場した謎を解き明かす物語でもありました。

「博打眼」
近江屋の主人・善一が憑かれる運命だという「あれ」とは何なのでしょう。キツイ訛りで話しかけてきた八幡様の狛犬が、近江屋の娘のお美代に「あれ」の退治方法を授けます。かごを背負った張子の犬たちが大活躍するのですが、やはり「あれ」の由来は、人間の悲哀と強欲だったのです。

「討債鬼」
こちらはあんじゅうのスピンオフ作品。手習所の若先生こと青野利一郎は、紙問屋の番頭から、主人の宗吾郎が息子の信太郎を殺そうとしていると聞かされます。背景には怪しい坊主がいるというのですが、その坊主にも理由がありました。利一朗と坊主は協力し合って皆に都合の良い結末を導こうとするのですが、すべてが片付いたと思われた瞬間に・・。利一郎の悲しい過去も明らかになります。

「ばんば憑き」
湯治旅の帰途に雨で足止めになった若夫婦が、品の良い老女と相部屋になります。不機嫌な若妻をよそに、世話を焼く婿養子の夫に老女が語り出したのは、50年前の忌まわしい出来事でした。そして老女は、自分が何者だったのかを思い出します。この話も怖いのですが、我が儘な妻に対して婿養子が抱いてしまった思いも怖いかも。

「野槌の墓」
長屋に住む浪人が娘の加奈を通じて、猫又のタマから頼みごとをされてしまいます。人に害をなしてしまって、救いようがなくなってしまった物の怪を退治、いや成仏させて欲しいというのです。しかし、タマには隠していたことがありました。その物の怪には、殺された少年の霊も一緒についていたのです。ラストの暖かさが印象に残る作品でした。

2014/9