りぼんの読書ノート

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バージェス家の出来事(エリザベス・ストラウト)

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メイン州に生まれ育ったバージェス家の三兄弟に起こったドラマは、アメリカ社会における「家族の絆」の重要性を再認識させてくれます。ピューリッツアー賞を受賞したオリーヴ・キタリッジの生活に続く翻訳です。

ニューヨークで弁護士として成功している長兄のジムと、訴訟支援団体に勤務する弟のボブは、ボブの双子の妹スーザンから、息子ザックを助けて欲しいと依頼されます。何の考えもなくモスクに冷凍の豚の頭を投げ込んだというのですが、ヘイトクライムとして公民権法違反の疑いで訴追される可能性があるというのです。そういえばメインの町にも近年、ソマリ人難民が増えていました。

アメリカ白人社会に馴染めないソマリ人をめぐる人種的な問題や、ダメ息子が起こした事件の反響と裁判の展開も綴られていきますが、これは本書のメインテーマではありません。この問題を通じて変わって行く「家族のあり方」に焦点が当てられるのです。地元法曹界への働きかけが功を奏さず、ストレスを抱えたジムが告白した過去の事件の真相が、「家族の星ジム、ダメ弟役のボブ、変人妹スーザン」という関係を変えていってしまうんですね。

心が折れてしまったかのようなジムは、事務所の補佐員との浮気もバレてWASP妻のヘレンからも離縁されてしまうのですが、兄弟姉妹や息子などの家族は残ります。というよりも、家族にしか拠り所を感じられなくなっているのが、今のアメリカ社会なのでしょう。そして、「一人ずつ物語がある。それが大事なのであって、どの物語も一人で抱えていればよい」というボブの述懐に至るのです。

著者とおぼしき女性小説家が、日曜学校でバージェス兄弟を教えていた母と交わした世間話が、この小説を生み出したと思わせる「プロローグ」も効果的です。

2014/9