プラハを「迷宮都市」にしてしまったのはカフカですが、本書が誘うプラハは、より原初的で魔術的です。現実のプラハ城もカレル橋も、暗い夜が支配する無意識の王国への入口と化し、「私」が彷徨う世界を充たしているものは、硝子の像の地下儀式、魚で覆われた祭壇、ジャングルと化した図書館、そして突如現れる悪魔のような動物たち・・。しかもそこは「迷い込む街」ではなく、「迷子になっていた息子たちが戻ってくる街」だというのです。
「ケンタウロスと機械の終わりなき戦い」とか、「虎に引き裂かれるダルグースの聖なる身体」とか、「牡蠣のメロディーの成熟形であるひとつの長い鍵盤による57名のピアニストのための楽曲」とか、「光り輝く悪の狩猟場の境界線上に設立された割引銀行」とか、ひとつひとつの言葉が物語を内包していそうですが、ぼんやりと想像するだけで十分でしょう。
プラハに限らず、東京でも大阪でもニューヨークでも同じこと。不思議な少女アルヴェイラに惹かれて、本書を手にして、緑色の路面電車に乗ってしまったら、たどり着く先は「もうひとつの街」になっているのかも・・。
2014/9