りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

もうひとつの街(ミハル・アイヴァス)

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シュールな作品でした。雪降りしきるプラハ古書店で手にした、この世のものではない文字で綴られた菫色の本に誘われて、「もうひとつの街」に足を踏み入れた「私」が綴る物語。

プラハを「迷宮都市」にしてしまったのはカフカですが、本書が誘うプラハは、より原初的で魔術的です。現実のプラハ城もカレル橋も、暗い夜が支配する無意識の王国への入口と化し、「私」が彷徨う世界を充たしているものは、硝子の像の地下儀式、魚で覆われた祭壇、ジャングルと化した図書館、そして突如現れる悪魔のような動物たち・・。しかもそこは「迷い込む街」ではなく、「迷子になっていた息子たちが戻ってくる街」だというのです。

ケンタウロスと機械の終わりなき戦い」とか、「虎に引き裂かれるダルグースの聖なる身体」とか、「牡蠣のメロディーの成熟形であるひとつの長い鍵盤による57名のピアニストのための楽曲」とか、「光り輝く悪の狩猟場の境界線上に設立された割引銀行」とか、ひとつひとつの言葉が物語を内包していそうですが、ぼんやりと想像するだけで十分でしょう。

プラハに限らず、東京でも大阪でもニューヨークでも同じこと。不思議な少女アルヴェイラに惹かれて、本書を手にして、緑色の路面電車に乗ってしまったら、たどり着く先は「もうひとつの街」になっているのかも・・。

2014/9