りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

仇敵(池井戸潤)

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今を時めく池井戸潤さんの比較的初期の作品です。主人公は、大手銀行のエリートであったものの不祥事の責任をとらされて退職し、今は弱小銀行の庶務行員として働いている42歳の恋窪商太郎。なんとなく設定が、前日読んだ身をつくし(田牧大和)に似ていますね。

出世の可能性ゼロで銀行の雑務を行う庶務行員という職種は、今でもあるのでしょうか。銀行の主要業務に関わることはなく、むしろ人生の豊かさや開放感を味わっていた恋窪ですが、新米行員から求められたアドバイスが、銀行や融資先の不正を暴いていくことになります。そしてその延長線上には、かつて彼を罠に嵌めた仇敵がいて、彼のことを目障りな存在と思っていたのでした。

やがて仇敵一味の動きは過激さを増していき、彼らの不正を暴こうとした元同僚や、裏資金源の秘密にかかっていた会社社長が自殺に見せかけて殺害され、その手は恋窪にも迫ってきます。果たして彼は、そのまま叩き潰されてしまうのでしょうか。

初読だったのに既読感があったのは、TVドラマの「花咲舞が黙ってない」に本書の複数の短編が使われたからですね。大手銀行が関わる金融犯罪や派閥争いに殺人や暴力は似合わない気もしますが、初期の作品では「殺人ミステリ色」を出す必要があったのかもしれませんね。

2018/12